水に流して 槇小奈帆　＜全国商工新聞「随想」 11月号より＞ 　 　秋風がスーパー・マーケットのＢＧＭをシャンソンに変えてくれた。つい立ち止まって耳をかたむけてしまうから、買い物の時間が長くなった。 　リメークされてヒットした歌に、あの『マイ・ウェー』がある。原曲は『いつものように』というシャンソンだ。歌は生きもの、なんどでも蘇生するけれど、扱う側に、「ちょっ、ちょっと待ってよ」、ってことがある。 　数年前のＣＭ。教会で挙式した幸せそうなカップルが映り、鐘が鳴り響くなか、サザンの桑田さんが『愛の讃歌』を歌っていたのにはビックリした。あの歌は、恋人を飛行機事故で亡くしたＥ・ピアフが、悲しみと絶望の渕で書き上げ歌ったという伝説付き。生保のＣＭだったから尚更に仰天で、これでは「保険をかけて早く死にましょう」と、誤解されてしまう。 　再起不能と囁かれたピアフだったが、『私は後悔しない』で、奇跡のカムバックをした。邦題は『水に流して』なのだが、フランス人の留学生が、「この言葉は明晰ではない」と言い出した。はて、聞きなれていて日本語とはむずかしい。 　三尺流れたら川はきれいになると言っていた時代、人々は川で洗濯をし飲料水にもした。水に流すとは川の水に流すこと、と答えた。ゴタゴタやいざこざも一切を川に流して、さっぱりと忘れるというのも、美しげに聞こえてどこか怪しい。流れたはずが、後々、やっぱりつっかえていたりする。それに、川上から厄介なものが流れてきては、下流側にとって大問題だ。 ン〜…。 　仰天といえば、某局で中国残留孤児の会見中、ＢＧＭで『ユンヌ・ファーム・アヴェック・トワ』が流れた。…軽い男たちとつき合ってきたけれど、やっと私は…、という歌で、これはとても聞き流せずＴＶ局に電話をした。 　水に流す…、流せるもの、流せないものがある。 ←マキの気まぐれページ　トップへ 槇小奈帆HPトップ イベント情報｜プロフィール｜マキの気まぐれページ｜マキのシャンソン教室 CD BOOK SHOP…ネレイス（ルパン3世、峰不二子テーマ曲ラブ・スコール収録）はこちら 関連記事および寄稿など｜ プロデューサーはあなた！｜ラブスコール誕生秘話おすすめ 槇小奈帆つれづれブログおすすめ｜YouTube動画配スタートNEW このホームページの無断転載・複製を禁止します。 Copyright (C) 槇小奈帆ホームページ　Maki's Room