独り言のような、お便りのような……、ハイ、槇小奈帆です
槇小奈帆

　寒いのはなんとも苦手。でも、桜が咲き始めるとこの時期に限っては冷え込むとホッとする。花持ちがする。そして今年はどこにくり出そうか…、桜前線がゆっくり北上 するようにと気をもむ日々が続くのだ。それにしても日本語は美しい。“花冷え”な どは空の色や花々がじっと耐えている風情が目に見えるようだ。お目当ての“三春の 桜”は雪害でやはり相当やられたらしい…。 Blue Jay Wayのコンサート当日、東京の桜はドンピシャリと開花した。タクシーの運 転手さんに道指定をして、表通りから裏通り、裏通りから横道へと、少々遠回りをし て桜を眺めながら会場入りした。久々のコンサートだったのにノリノリで歌えたの は、桜からもらったエネルギーのお陰でもある。楽しい一夜だった。今回のコンサー トはプログラムを作らなかった。シャンソンに魅せられた頃の歌、ジャズに目移りし た頃の歌、やっぱりこの道以外にないと決心させてくれた歌……、そんな歌たちでこ の３０数年を綴ってみたかった。自分史など資料を見ないととんと忘れているくせに、歌いだすとその時々の出来事や情景や忘れられない顔・顔・顔が鮮やかに蘇って くる。並べてみるとホント、ボコボコ人生で金平糖のようなこれまでの人生だ。でも その芯はやっぱりワタシ、「私」に違いない。去年から歌うのが辛くなっていた。歌うことへのマグマが鳴りをひそめて“変質”を感じていた。惰性で歌うのはイヤだ。 潮時も考えた。そしてあの夜、私の歌たちは「変質なんかしていないよ」と、そっと 教えてくれた。終演後、激しい雷雨が美しい春の夜を襲った。満開の桜と雷雨、しっかしヒト騒がせな歌手だ。皆さん、ごめんなさいね。 風邪ひかなかったですか？
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　「今年は花粉が少ないから楽なのよ」と言った端から、「ふぇ・ふぇ・ふぇ〜〜ッく しょ〜ん〜」、女だてらになんとも豪快なクシャミだ。数年前、いきなり花粉症という悪魔の囚われ人となった彼女は、この時期になると婆さんを通り越して爺さんにな る。「右耳から左耳に垢すりタオルを貫通させて、キュッキュッとやりたい」とか、 「鼻も目ん玉もグルンとひん剥き取り出して、冷水でぽちゃぽちゃと洗いたい」とか、赤く腫れた目をして恐ろしいことを真顔で訴える。ホカロンに続いて花粉対策マ スクやそれ用の薬の需要は右肩上がりだそうで、森林対策の遅れは政府と業界が裏で 結託しているんじゃないかと真剣にまくし立てるのだ。あり得ないこと、あってはな らないこと、浅ましいほどに呆れた不祥事が連日露見しているから、国民は少々のことでは驚かなくなっている。いけしゃぁしゃぁとして油断も隙もないお偉いさんたちのこともあるし、「嘘〜ッ、まさか〜ッ」を飛び越えて、「多分ね、そうかもよぉ」 などとへラッと言ってしまうことが怖い。
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　お弟子さんたちの発表会がある。シャンソンを始める動機も年齢もてんでん・ばらばらだけど、教室はいつも笑いが絶えない。ある人は子育てを終え、舅・姑を見送り、 更にご主人を見送った後、ふとこれまでの人生で自己表現をしたことがあっただろうかと振り返った。まったくの初心者で恥ずかしがり屋だった彼女が、今、生き生きと 輝いている。私は時々、彼女たちの歌に胸を熱くする。世の中に歌の上手い人は山といる。技術よりも私はその人の素朴な優しさや美しさを歌の中に感じたい。「そうだったの、あなたってそうだったの…」と、その人を受け止められたらパーフェクト 100点満点だ。現役にこだわりまだまだ先に行くことを意識していたから、教える側に立つことに迷いがあった。でも、今、彼女たちから沢山の大切なことを教えてもらっている。

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