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暑中お見舞い申し上げます
槇小奈帆
去年の暮れ、牡蠣にやられた。ひどいものだった。七転八倒して意識朦朧、死ぬ かと思った。聞くところによると２〜３年は食してはならないのだそうで、もっ とひどいことになったり、人によってはアレルギー体質に変わって体中にブツブ ツ・痒々がでるらしい。悶え苦しんだうえに好物をとり上げられるのだから、な んだか身内に裏切られた気分だ。 このところ頻繁に仙台往復があって、過日はコ ンサートの打ち合わせのために一関まで足を伸ばすことになった。 旅のお楽しみはやっぱり美味しいものとの出会いだ。お目当ての寿司屋さんが休 業で評判の小料理屋さんに案内してもらったのだが、「今夜のいち押しは？」の 問いに「やっぱし夏牡蠣だネェ」とはズイブンじゃない！ 牡蠣のてんぷら、牡蠣のフライ、牡蠣の酢の物…、隣も向かいも感動顔でハフハフ・ぺろぺろ・アチアチなんて頬張っている。取り繕ってはいたけれど、顔の筋肉は痙攣をはじめ目 つきは悪くなっていたはずだ。食通が高じて脱サラから店を開いたという店主 は、「大丈夫、大丈夫！」と真顔で言うけれど、責任をとるとは決して言わない。この店の牡蠣は特別な養殖をしているのだそうで、頃合を見計らって稚貝を 沖合まで運び、深海で育てているのだという。だから身はほっこりとして大ぶり、甘みも風味もそんじょそこらの牡蠣とはまったく違うのだと店主はしたり顔だ。（…なんにでも例外がある…フグほどひどくはあるまい…え〜い、なにをゴ チャゴチャ、食べちゃえ〜ッ…！）。食い意地が自制心をぶん投げた。胃袋に流 し込んだ濃い目の「魔王」と「伊佐美」を助っ人に、パクッ！ク〜ッ！美味 いッ！最高〜ッ！ スタッフの心配顔を横目になにごとも起きず起こさずルンルンで帰京。命がけの スリルの分、感動もひとしおでありました。（皆さんは真似しないでくださいよ！） |
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