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さよなら 今村先生
槇小奈帆
５月３０日、今村昌平さんが亡くなられた。近年はお体を悪くしていると聞いて いた。監督の作品が好きだった。底辺に生きる人々の描写はみずみずしく、リア ルだった。人間の醜さ哀しさ、弱者の優しさ小賢しさ、偽善も欺瞞もむんずと掴 みとってユーモアを添えた。うだつの上がらないどこにでもいるような人物に、 えも言われぬ親近感を抱いたりもした。監督の映画にかける情熱は幾度か自宅を 抵当に入れさせた。そんな凄烈で豪快な男の生き方に私は憧れた。 知人の紹介でお話しをする機会を得たのは１０年ほど前。新宿のどこかで試写会 があった時、心臓をバクバクさせながらご挨拶をした。小学生の時、映画『にあ んちゃん』の映画感想文で河北新報社から賞を戴いたことがあります…などと恐る恐る話した。ベンチに座って優しくあたたかく向き合ってくれた巨匠の笑顔 を、昨日のことのように思い出す。その後、ジァンジァンに何種類もの野草をアレンジした見事な花束が届いた。「マキさんって、こんな方なんでしょう？」 と、奥様が見立てて下さったと聞いた。 筋金入りのプロの大人がひとり、またひ とりと逝く。厳しさゆえ「鬼のイマヘイ」と呼ばれた監督。こうした監督に鍛えられたスタッフや役者はなんと幸せなことだろう。より強き・より高きに挑むことで人は意味のある失望や非力さを識るからだ。 昨今の映画事情についてウッ ディー・アレンは自虐的にこう言っている。「善良に社会的価値はない。社会にとって成功はイコール金なのです」。それは映画界や音楽界に限らず、連日暴かれるさもしい公人の不祥事や家庭のあり方や教育環境にもかぶって聞こえてく る。まだ疲れたなどとは言っていられない。中田選手は２９歳で引退したけれど、この道は長丁場。そして私のピッチは舞台。 まずは７月７日の「Sendaiパ リ祭」に招かれている。待っていてくれる人がいる限り、“善良”に歌い続けることが私の道。 今村先生、ありがとうございました。そして、さようなら…。万歳！ |
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